Works事例紹介
省エネルギーで夏は涼しく、冬は暖かい「信州健康ゼロエネ住宅」
取材日:2023年9月2日
田中秀明さん(60代) 千絵さん(60代)
ご主人の定年後、趣味のスキーを楽しみに兵庫県姫路市から池田町に移住された田中さんご夫妻。移住前に、池田町で開催された移住セミナーで地元の矢口工務店を紹介され、後日、訪問し新築の相談。これまで矢口工務店が手掛けた新築のフォトファイルを眺めていたご主人、その中の、ある2枚の家の写真に気持ちが高まります。県産の無垢の木をふんだんに使った自然を感じられる家、どちらの家も設計は同じ、HAL設計室の荒井さんでした。それから田中さんご夫妻は設計士•荒井さんの元を訪ね、新築の設計を依頼。
それから2年10カ月—。終の住処がついに完成、「信州健康ゼロエネ住宅」で新たな暮らしが始まりました。
残暑がまだ残る9月初め、田中さんご夫妻、家に遊びに来ていた娘さんご夫妻、設計士の荒井さんにお話を伺いました。
安曇野の風と太陽の光りを取り入れるパッシブデザインで、夏は涼しく
長野県産木材をふんだんに使って建てた家の土地は、元果樹園。その頃の梅や桃、洋梨の木が周りに残り、季節がくると緑、ピンク、黄色と順番に実がなり色づきます。庭にはハーブも植えられ、ところどころですっきりとしたいい匂い。その庭の先にはご主人の希望通り、北アルプスの雄大な山並みが広がります。
新築にあたって、どのような希望を出されたのでしょうか。
「スキーで白馬に行くときに、この辺はよく通っていて松本平は天気が良いことも知っていましたので、まずは安曇野の自然を感じられるような家。二つ目が長野県産の無垢の木を使うこと。そして次が大事なんですけど、ランニングコストがかからない、カーボンニュートラルに寄与した家にしたい。この3つがおおきなところです。」と木のいい香りがするリビングでご主人は話します。
ご主人の希望を形にした設計士の荒井さん、家づくりは、風の流れと日射を取り入れた「パッシブデザイン」が基本だと話します。
「1階は東西南北、安曇野の風が入るよう窓を配置、南の窓は冬の日射が入るように、西の窓は北アルプスの眺望がよく見えるように、ともに大きく取りました。」
そして室内を快適な温度に保てるよう高性能な断熱材とサッシを採用、さらに窓には断熱効果もあり、日射を調整しやすいカーテンを設えました。
「夏でも朝は涼しいので、窓を全部開けると室内は22度から23度、10時くらいに外気温が上がり室温が上がりだしたら窓とカーテンを閉めて涼しい空気を室内に閉じ込めます。昼間、外が30度を超えても室温は27度くらいのままです。さすがに昼過ぎ室温が30度を超えたらエアコンをつけますが、30度以下なら湿度も低く一日中エアコンを使わない日もあります。」とご主人。
設計士の荒井さんによると、夏は昼間、太陽高度が上がるので日射が入らないように南側の庇(ひさし)を出していて、その効果も大きいとのこと。
安曇野の自然を生かしたパッシブデザインのおかげで、夏は昼間の一番暑い時間帯しかエアコンの冷房は使わず快適に過ごしています。
美しい雪景色を見ながら、冬は薪ストーブで暖かく、料理も楽しむ
冬については、午前中、南の窓からの日射を取り入れ、暖まったらカーテンを閉め断熱、そして夜は薪ストーブが活躍します。
「松本平は晴天率がいいので、冬でも日中15時くらいまで1階のリビングのテーブルまで日が入り、暖房なしで家の中は23〜24度をキープできます。15時半に日が西のアルプスの方に沈みはじめ、夕方17時ころ、室温が20度を下回り肌寒くなったら、薪ストーブに火をつけます。それから夜23時ごろに最後の薪を一本、入れて朝まで、1階も2階の寝室も25度以上あるのでぽかぽかで、その暖かさは朝まで続きます。」とご主人。
冬の暖房は、エアコンは使わず薪ストーブのみ。薪の使用量は多くて1日5〜6本で、ひと冬に約1.5トン。初年度は製品としての薪を購入していましたが今後は自宅周辺の倒木利用や原木購入などにより、購入費は約1万5000円で済みとても経済的だと喜んでいます。
そして薪ストーブは暖を取るためだけではなく、料理も楽しめるのがうれしいところ。
たまたま遊びに来ていた娘さんも
「薪ストーブの熾火(おきび)でサツマイモ焼いたり、ピザ焼いたりします。みんなでやると楽しいし、炭火で木の匂いもして火力も強いからすぐカリっとなる、ピザは特に最高です。」と話し、笑みがこぼれます。
信州の木を使い、地域貢献と森林の活性化へ
そして、信州の木にこだわった理由をご主人に伺いました。
「家の寿命や耐久性を考えるとその土地で生育した木はその気候風土に合っているので県産の木を使いたい。また長野県に移住するのであれば、長野の木を使うことで少しでも、長野県の林業の振興にもつながる、それによって森がしっかり守られて、水害が抑えられ、環境のためにも少しでもお役に立てたら、それはいうことないなと。」
その思いもあり、家を建てる前に、設計士•荒井さんの紹介で、田中さんご夫妻と3人で、実際に南木曽町の材木屋さんを訪れ、木材を伐採した山や、実際に製材している様子を見学。ご夫妻は「ここならしっかりしているし間違いない」と思ったそう。
「『あそこの国有林からここの木を伐採してきたんだよ』と胸を張って材木屋さんに言われ、あんな深い山の急な斜面から手間暇かけて木を切り出すんだから、輸入材より高くても仕方がないなと思いましたね。それから丸太の中央部の心材から構造材に使われる四角い柱になっていく過程と、樹皮に近い辺材の部分から屋根の下地材などに使われる野地板が切り出されるところを初めて見させていただきました。」と現場を見て感心したというご主人。
奥さまも「どんな木材をどういう所に使われているのか、というのをはっきりと視覚で見られてよかったです。」と貴重な経験をし、うれしそう。
そして荒井さんが「木曽はヒノキが有名なんですけど、木の量はヒノキよりもカラマツの方が多いんですよ。すごくいい、太いカラマツが育っているものですから、それを梁•桁材に使いました。そして壁は全部、木曽ヒノキの野地板を田中さんがご自身でサンダー掛けしたものを張っています。床は根羽スギです。」と教えてくれました。
その見学で木材への愛着がさらに湧いた田中さんご夫妻、自分たちもぜひ家づくりに携わりたいと、矢口工務店の裏の作業場を借り、ヒノキから切り出され、ざらざらした長さ3メートルの野地板の表面を奥さまと2人でサンダー掛けをし、実際に壁材に使用。その数なんと計550本、2週間かかりました。
おかげで理想通りの、長野県産の木をふんだんに使った家が完成。無垢の木のいい香りに包まれ、調湿効果もあり、とても快適です。
地球温暖化防止に寄与する信州健康ゼロエネ住宅
安曇野の自然を感じながら、極力、電気を使わない、カーボンニュートラルな暮らしを目指しているというご主人に、その理由を最後に伺いました。
「地球温暖化の影響を地元、姫路でも身近に感じていました。数年前、大型台風により川の水位が上昇し電車が止まったり、また水害なども目にしてきました。一番は趣味のスキーを楽しみにしていた数年前の冬、十数カ所ある兵庫のスキー場のほとんどが雪不足で営業ができませんでした。楽しみにしていたスキーが地元でできず、信州でのスキーの回数を増やしてその年は、ようやく楽しむことができましたが、温暖化の影響を感じました。これからは、残りの人生、少しでも地球温暖化防止に寄与する、環境にやさしい暮らしを、娘たちの世代、さらに先の世代のために考えていきたいと思います。」